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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)207号 判決

スイス国シーエイチー9000セント・ガレン

カペレンシュトラーセ1番

原告

コシラン アー・ゲー

同代表者

エルンスト・ウェグマン

ルネ・ブルニイ

同訴訟代理人弁護士

松尾和子

同弁理士

加藤建二

大島厚

大阪府大阪市中央区南本町4丁目2番5号

被告

ジャパン・マーカンタイル株式会社

同代表者代表取締役

濱田隆志

同訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

松本司

岩坪哲

田辺保雄

主文

特許庁が平成1年審判第704号事件について平成6年3月29日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求の棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、別紙表示の構成からなり、旧商品分類第17類「被服(運動用特殊被服を除く)、布製身回品(他の類に属するものを除く)、寝具類(寝台を除く)」を指定商品とする登録第1775971号商標(昭和53年12月15日出願、昭和60年6月25日登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

原告は、昭和63年12月17日、商標法50条により、本件商標の登録取消審判を請求し(平成元年2月27日登録)、平成1年審判第704号事件として審理されたが、平成6年3月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年5月16日原告に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  本件商標の構成、指定商品及び登録関係は、前項記載のとおりである。

(2)  本件商標は、別紙に表示したとおり、大文字と小文字を組み合わせた欧文字の7字よりなるものであるところ、構成中の第6番目の文字は、第2番目の「o」の小文字とほぼ同じであることから、全体として「CosiloN」(語頭と語尾は大文字)と書してなるものと判断するのが相当である。

そして、被請求人(被告)が本件商標の使用であるとして提出した乙各号証に示されたもののうち、乙第10号証の1及び2(本訴における甲第2、第3号証の各1ないし3)によると、該書証は、女性雑誌「ミセス」の昭和62年3月号及び同63年3月号に掲載された広告頁の写しであるところ、該広告ページには、「CosilaN」の文字が表示されており、該文字は、商品「ドレス、ワンピース」等の婦人服の商標として使用されているものと認め得るものである。

そして、該使用商標と本件商標とは第6字目の文字が「a」と「o」の差異が認められるものの、ともに小文字で筆記体風に書されていることからして、外観上、その差異は判然とし難く、本件商標とは、社会通念上同一の商標の使用とみるのが相当である。

してみれば、本件商標は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、請求に係る指定商品中の被服に含まれる「ドレス・ワンピース」について被請求人により使用されていたものということができる。

なお、請求人(原告)は、被請求人との代理店契約の有無及び本件商標の使用方法につき述べるところあるも、本件商標の「ドレス、ワンピース」への使用は、前記のとおり判断し得るもので、その主張は採用できない。

したがって、本件商標は、商標法50条1項の規定により、その登録を取り消すことはできない。

3  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)は認める。同(2)は争う(但し、「CosilQN」が「CosilaN」と社会通念上同一の商標であることは認める。)。

本件商標は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、指定商品中の被服に含まれる「ドレス、ワンピース」について被請求人により使用されていた旨の審決の認定は、以下述べるとおり誤りである。

審決は、甲第2、第3号証の各1ないし3(審決における乙第10号証の1及び2)により、被告が本件商標を商品「ドレス、ワンピース」等の婦人服の商標として使用していたことを認定した。

しかし、甲第2、第3号証の各2の記事に使用されている商標は、「ドレス、ワンピース」の素材である商品「布地」の商標であって、「ドレス、ワンピース」自体の商標として使用されているものではない。

したがって、本件商標が「ドレス、ワンピース」等の婦人服について使用されているとした審決の認定は誤りであり、本件商標はその指定商品に使用されていない。

さらに、被告は、甲第2、第3号証の各1ないし3における商標の使用に関与していない。すなわち、雑誌「ミセス」における広告兼記事は、株式会社ウールン商会(以下「ウールン商会」という。)が、原告の製造に係る布地の販売促進のために、広告料を負担して(但し、間接的には原告が負担している。)、訴外文化出版局に掲載を依頼したものであり、同広告兼記事に使用された商標は、その布地の出所、すなわち原告を表示するものである。このように、上記広告兼記事における本件商標の使用主体は、表面的にはウールン商会であり、実質的には布地のメーカーである原告であって、被告はこの広告兼記事に全く関係がない。

したがって、審決が、甲第2、第3号証の各1ないし3に基づいて、本件商標は被告により使用されていたものと認定したのは誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1及び2は認める。同3は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  主張

被告は、本件審判請求の登録前3年以内に、株式会社ヱスターニュートン(以下「ヱスターニュートン」という。)、ハマ・インターナショナル株式会社(以下「ハマ・インターナショナル」という。)及びキャピタル商会に対し、ワンピース、ブラウス、ドレス等に「CosilaN」の商標を付して販売した。

上記事実は、乙第3号証の1ないし12、第4号証の1ないし8、第5号証の1ないし5、第7号証、第8号証の1ないし6、第9号証の1ないし11、第10号証の1ないし5によって、明らかである。

また、被告が本件商標を本件審判請求登録前3年以内に使用したことは、審決の認定のとおり、女性雑誌「ミセス」の昭和62年3月号及び同63年3月号の広告頁に、商品「ドレス、ワンピース」等の婦人服に「Cosilan」の商標を使用したものが掲載されていることからも明らかである。

なお、審決は、本件商標につき「CosiloN」と認定しているが、「CosilaN」である。仮に、本件商標は「CosiloN」であるとしても、被告の使用商標である「CosilaN」は本件商標と社会通念上同一の商標である。

第4  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

なお、審決の理由のうち、「CosiloN」が「CosilaN」と社会通念上同一の商標であることは、当事者間に争いがない。

2  そこで、被告が、本件審判請求の登録前3年以内に、その主張する「CosilaN」の商標を、ドレス、ワンピース等の婦人服に使用したことがあるか否かについて検討する。

(1)  原本の存在及び成立に争いのない甲第2ないし第4号証の各1ないし3、第5ないし第7号証の各1ないし4によれば、女性雑誌「ミセス」の1987年3月号、1988年3月号、1989年2月号(2月7日発行)中の広告頁には、ドレスやワンピース等の婦人服を着用したモデルの写真が掲載され、「CosilaN」の文字が表示されていることが認められる。

しかし、上記甲各号証中の「“コシラン”の綿カットボイル」、「コシラン社の花プリントドレス」、「布地 ウールン商会」等の広告記事、及び、原本の存在及び成立に争いのない甲第8号証の1、2、乙第12ないし第14号証によれば、上記女性雑誌への広告掲載は、ウールン商会が原告の製造に係る布地の販売促進のために行ったものであって、上記「CosilaN」の文字は、写真掲載されている婦人服の素材に用いられている原告の商品である「布地」を表示する原告の商標として使用されているものであり、被告は上記広告には関与していないことが認められる。

したがって、上記女性雑誌に「CosilaN」の文字が表示されていることをもって、その指定商品に本件商標が使用されたものと認めることはできない。

(2)  被告は、本件審判請求の登録前3年以内に、ヱスターニュートン等に対し、ワンピース等の婦人服に「CosilaN」の商標を付して販売した旨主張するので、この点について検討する。

乙第3号証の1は、被告のヱスターニュートン宛の、昭和61年4月9日から平成元年5月17日までの間に被告の商標「COSILAN」が付された被服(ワンピース、ブラウス、ドレス)を仕入れて販売したことの証明願(平成元年8月3日付け)と、ヱスターニュートンの証明書(いずれも写し。以下同じ)であり、乙第3号証の2ないし12は上記証明願、証明書に添付されたヱスターニュートン作成名義の物品受領書、乙第8号証の2、5、第9号証の3、5、7、10、第10号証の2、3は上記物品受領書に対応する被告作成名義の請求書である。

乙第4号証の1は、被告のハマ・インターナショナル宛の、昭和61年3月14日から平成元年3月15日までの間に被告の商標「COSILAN」が付された被服(ワンピース、ブラウス、ドレス、スカート)を仕入れて販売したことの証明願(平成元年8月1日付け)と、ハマ・インターナショナルの同日付け証明書であり、乙第4号証の2ないし8は上記証明願、証明書に添付されたハマ・インターナショナル作成名義の物品受領書、乙第8号証の3、6、第9号証の4、6、8、11、第10号証の4は上記物品受領書に対応する被告作成名義の請求書である。

乙第5号証の1は、被告のキャピタル商会宛の、昭和61年3月5日から平成元年3月22日までの間に被告の商標「COSILAN」が付された被服(ワンピース、ブラウス)を仕入れて販売したことの証明願(平成元年8月7日付け)と、キャピタル商会の同日付け証明書であり、乙第5号証の2ないし5は上記証明願、証明書に添付されたキャピタル商会作成名義の物品受領書、乙第8号証の4、第9号証の2、9、第10号証の5は上記物品受領書に対応する被告作成名義の請求書である。

そして、上記各物品受領書、請求書の「品名及明細」欄には、「ドレス」、「ワンピース」、「ブラウス」の記載とともに、「COSILANブランド製品」あるいは「COSILANBRAND製品」の記載があることが認められる。

しかしながら、被告は、繊維並びに雑貨の輸出入及び内地取引を目的とする会社であること(成立に争いのない乙第11号証)、被服の販売はその目的としていないこと、被告は、被服をヱスターニュートン等に販売したとしながら、販売に係る製品の製造を他に行わせたこと、あるいは他から購入したことについての立証がないこと、被告は、昭和54年頃から、原告が日本における特約店であるウールン商会に綿プリント織物等の原告製品を販売するに当たり、専らウールン商会に原告製品を引き渡すための代理業務及び輸入業務を行ってきたものであり、平成元年1月頃までは原告と被告との関係は概ね円満に推移し、その間、被告は相当多額の手数料を得ていたものであるところ(前記用第8号証の1、2、乙第11号証ないし第14号証)、乙第8号証ないし第10号証(枝番省略。被告のヱスターニュートン等宛の請求書)に記載されているワンピース等被服の販売額は年間100万円にも満たないものであり、もし被告が「COSILAN」あるいは「Cosilan」の商標を使用してヱスターニュートン等との取引を行っていることが原告に判明すれば、原告との関係が打ち切られ多額の利益を失うことは明らかであって、そのような危険を冒してまで上記のような些少な取引を行うとは考えにくいことを併せ考えると、乙第3号証の1ないし12、第4号証の1ないし8、第5号証の1ないし5、第6号証の1ないし4、第8号証の1ないし6、第9号証の1ないし11、第10号証の1ないし5の作成経緯及び記載内容の信憑性については疑いを持たざるを得ない。

したがって、上記乙各号証によって被告主張の上記取引を認定することはできず、他に上記事実を認めるに足りる証拠はない。

なお、乙第6号証の1は、乙第3号証の1ないし12、第4号証の1ないし8、第5号証の1ないし5と同内容のものを添付してなされた、被告から大阪商工会議所宛の、被告の商標「COSILAN」が付された被服を使用販売していたことの平成元年8月10日付け証明願と、同商工会議所の同日付け証明書であるが、上記説示のとおり、乙第3号証ないし第5号証(枝番省略)の記載内容は信憑性を有しないから、大阪商工会議所の上記証明事項は採用できない。

(3)  乙第7号証は、ワンピース、スカートを撮影した写真であって、ワンピース、スカートには、「Cosilan」の文字が表示された下げ札が付されているが、上記写真は、平成元年8月5日に撮影したものであり(証拠方法説明書)、上記(1)、(2)に認定、説示したところに照らしても、乙第7号証をもって、被告が、本件審判請求の登録前3年以内に、その指定商品に本件商標を使用したことを認めることはできない。

(4)  他に、本件審判請求の登録前3年以内に、本件商標の指定商品に「CosilaN」あるいは「Cosilan」の商標が使用されたことを認めるに足りる証拠はない。

3  以上のとおりであるから、本件商標は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、請求に係る指定商品中の被服に含まれる「ドレス、ワンピース」について被告により使用されていたものとした審決の認定は誤りであり、原告主張の取消事由は理由がある。

よって、原告の本訴請求は正当であるから認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙

本件商標

〈省略〉

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